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むふむふの日2020スペシャルコラボミニ小説!

ハイ、今年も6月2日むふむふの日がやって来ました!
今年のむふむふスペシャルミニ小説は、『うちの中学二年の弟が』×『贅沢な身の上』のコラボです。
過去最高にメタな小話を書いてしまいましたよ!
作中に自分の名前を出したのは初めてです(笑)
六区とのコラボだからこそ出来たことだと思います。
いつもなら、花蓮ちゃんが他の作品世界にお邪魔する……というのがお約束展開なのですが、お互いにメタ的な作品同士だと、こういうことが出来るんだなあと、妙に感心しながら書きました(笑)
どういう展開のお話なのか、気になる方はぜひ読んでみてくださいね!

 

 

うちのときめき作家の弟が!

 

 都下某所に広大な敷地を有する私立鷺ノ院学園。私こと鷺沼(さぎぬま)湖子(ここ)は、高等科一年に籍を置く、ごく普通の女子高生である。
 初めにお断りしておくと、これは私が見た夢の物語である。夢オチを予告した上で語るならば、事の起こりは弟の六区(ろっく)が友達に貸した本だった。
 とある日曜日。私が家でひとり、留守番をしていると、六区の同級生(男子)が、借りた本を返しに来たと言って訪ねてきた。漫画や小説が大好きな弟の布教活動は珍しいことではないので、不在の本人の代わりに私が受け取っておいた(ちなみに本人は今、別の友達と遊びに出かけている)。
 普段ならば、さっさとそれを弟の部屋に置いて自分の部屋へ戻るところだけれど、十冊以上の文庫本が入った紙袋の中、ふと目に入った表紙が私の興味を惹いた。というか、タイトルが気になった。
『贅沢な身の上』(我鳥彩子著・コバルト文庫刊)
 中学二年男子が少女小説を読むのか、それを同級生男子に貸すのか、というツッコミは今さらしない。母親の蔵書を読んで育った六区はそういうキャラクターだし、クラスメイトも類友だ。そんなことよりも私が気になったのは、
 ――うちの弟も相当に贅沢な身の上だと思うけど、この本にはどれだけ贅沢な人が出てくるの?
 ということだった。
 六区は、天使の美貌を持つ中学二年男子である。白い肌にピンク色の頬、大きな瞳にバサバサ睫毛、ぷるんぷるんのくちびる。見る者すべてを魅了する容姿に恵まれ、行き過ぎた少女趣味による妄想癖や女装癖といった一見マイナス要素もマイナスにはならず、むしろそのキャラクターが人を惹き付ける。そうして広がり続ける人脈によって、望みはなんでも叶えられてしまう。我が弟ながら、なんて贅沢な身の上、末恐ろしい、と常々思っている。
 片や父親のスポ根漫画蔵書を読んで育った私は、正直、六区や母の少女趣味が肌に合わない。普段はふたりが楽しく読んでいる本に見向きもしないのだけれど、今回ばかりはちょっと物語の内容を知りたくなった。六区の部屋に本を返す前に、リビングでシリーズ一巻を開いてみた。
 これが間違いの元だった。
 中華風の世界観みたいなのにカタカナ満載なのはまあコメディ作品の愛嬌として、問題はそこではない。主人公の花蓮という少女が、六区とそっくりなキャラクターだったのだ。ひどい妄想癖に加えて、無駄な行動力と強運。親の勧める縁談を蹴って、趣味悠々生活をするために後宮へ飛び込んだのに、まったく興味のなかった皇帝陛下から見初められるという贅沢な身の上。言動はいつもハチャメチャなのに、なんだかんだですべては丸く収まり、美味しいところはちゃっかりいただいてゆく。
 主人公に感情移入するというより、その姉妹の方に同情しつつ(きっと、花蓮に振り回されて大変な目に遭い続けているに違いない。六区に振り回され続けている私のように!)、こんな人生を舐めたような主人公がどうなってゆくのかが気になって、つい先へ先へと読み進めてしまった。
 ここからが、夢の物語である。

 
 気がつくと私は、見知らぬ街の大きな通りにいた。道行く人々は中国の時代劇みたいな恰好をしていて、私の隣ではワンピース姿の六区(今さら珍しくもない女装!)が物珍しそうに辺りをきょろきょろしている。
「すごいよ、ココちゃん! ここって麗鋒国の京師・景遥だよ! 僕たち『贅沢な身の上』の世界に入り込んじゃったんだ!」
 興奮する六区に対し、私は冷静だった。
 そんなわけがない。これは夢だ。私はリビングで『贅沢な身の上』を読みながら寝てしまったのだ。六区と花蓮の共通性をひしひしと感じながら読んでいたから、こんな夢を見ているに違いない。
 ただし、たかが夢だからと安心は出来ない。私ひとりではなく、六区も登場しているとなれば、厄介な問題が起きないわけがない。
 ……と心配している傍から、六区の足元に何やら丸い物が転がってきた。それを拾い上げた六区が首を傾げる。
「なんだろう、これ?」
 拳大もある丸く磨いた白い石で、表面に不思議な模様が刻んである。如何にも曰くありげだった。
 ……厭な予感。
 早く手放した方がいい、と忠告する暇もなく、辺りからバラバラと人相の悪い男たちが現れたかと思うと、私と六区は狭い路地に連れ込まれてしまった。
「その石を返してもらおうか」
「刻んである文字を見たのか? それじゃあ……かわいそうだが、ただじゃ済まされねえな」
 六区は足元に転がってきた物を拾っただけで、悪いのは大切な物を落としたそっちだと思うんだけど!?
 そんな反論が通じる相手でもなく、男たちは六区の手から白い石を取り上げ、そのまま私たちを連れ去ろうとした。なんとか暴れて抵抗しているところへ、突然、路地の入口から若い女の子の声が響いた。
「そこで何してるの!? 異人さんを攫おうとするなんて、さては極悪な人買いね!? 攫った娘を、劣悪な環境でただ働きさせるつもりなんでしょう! そんなの許せないわ、ねえ、こいつら畳んじゃって――!」
「またおまえは、余計なことに首を突っ込んで――」
 女の子に命じられた長身の青年が、面倒臭そうに言いながらも男たちを畳んで追い払ってくれた(喧嘩強い!)。危険が去ったのを確認してから、女の子が駆け寄ってくる。
「大丈夫? 怪我はない? 何か盗られたりしてない?」
「――ありがとうございました。大丈夫です。たまたまそこで拾った物が、あの人たちの物だったみたいで、それを取り返されただけです」
 私がそう答えると、女の子は丸い瞳をキラリと輝かせた。
「拾い物? 何か曰く付きの物だったのかしら?」
 そのつぶやきに、六区が答える。
「たぶん――。不思議な模様が刻まれた石だったし、何かの呪術にでも使うものなんじゃないかな。たまたま拾っただけの人間を問答無用に攫おうとするなんて、相当ヤバイ代物かも――」
「えー、相当ヤバイ呪術のアイテム!? 私も見たかったわー! どんなのどんなの~!?」
 女の子は瞳をキラキラさせて六区の話に喰いつき、青年はその腕を引いて窘める。
「おい花蓮、寄り道をしている場合か? 新作の団子を食べに行くのだろう」
「でも陛下、お団子は明日でも美味しく食べられるけど、美味しい事件には明日もうまい具合に出くわせるとは限らないんですよ。遭遇した時に首を突っ込んでおかないと!」
「だから、おまえが首を突っ込む筋合いはないだろう。そう言って私とのデートを何度潰せば気が済むのだ!」
「デートじゃありませんし! 私が城市へ遊びに行くのに陛下が勝手にくっついてくるだけだし!」
「そもそも、後宮の妃がそうやって好きに外へ出かけられるのが間違っているのだということに、どうしたら気づいてくれるのだおまえは!」
 初めはひそひそ話だったのが、だんだん普通の声量になり、喧嘩腰になり、このふたりが何者なのかを私たちにばっちり暴露してくれた。隣で六区が大興奮している。
「すごいよ、ココちゃん! 広い景遥の中で、花蓮と陛下に偶然出くわした!」
 ……そりゃあね、『贅沢な身の上』を読みながら見ている夢の世界なんだから、主役が登場するのも当然でしょうよ。むしろ出てこない方が不自然だ。この展開は覚悟していたけれど、それにしても見事に都合良く通り掛かってくれたものだった。
「そんなにお団子が食べたいなら、陛下だけで行ってください。私はこの人たちとお話ししますから!」
 贅沢な身の上の寵妃・花蓮は、気の毒な皇帝陛下にシッシッと指を振ると、私たちの方へ擦り寄ってきた。
「ねえ、あなたたち、お名前は? どこから来たの? 私は景遥のちりめん問屋の孫娘で、淑花蓮。お団子と香蕉が好きな十七歳よ」
 本の中で読んだ自己紹介を実際に目の前で披露されると、不思議な感じがした。テレビで見ていた芸能人を初めて生で見た時の「本当に実在するんだ、この人!」的な感動というか。いや、花蓮も陛下も小説の中のキャラだから、実在はしないんだけど(自分が何を言いたいのかわからなくなってきた!)。
 複雑な心境に陥っている私(と仕方なくここに留まっている陛下)を無視して、六区と花蓮は話が弾んでいる。
「僕は鷺沼六区。中学二年生の十三歳。こっちは姉のココちゃん。高一で十六歳だよ。えっとね、東海に浮かぶ小島から来たんだ」
「えっ、東海の小島から!? 真奏と一緒なの? その割に恰好が全然違うけど――。ていうか、今あなた、僕って言った? 女の子じゃないの?」
「ちょっとね、訳あって女の子の恰好してるだけなんだ」
 思わせぶりにウインクして答える六区に、花蓮は丸い瞳を一層煌めかせる。
「訳って!? ううん、言えないなら無理に言わなくていいわ。誰だって人に話せない秘密のひとつやふたつ、あるものね。きっと、東海の小島からはるばる麗鋒国へやって来たのも、その訳のせいなんでしょうね――」
 むふむふ妄想スイッチの入ってしまった花蓮を陛下が諦念の滲んだ表情で見遣り、私は六区の腕を引っ張って耳元に文句を言った。
(訳って何よ! あんたの女装は単なる趣味でしょ、思わせぶりなことを言って妄想を煽って、どういうつもり)
(こう言っておけば、花蓮は勝手に妄想するだけで、変な詮索はしてこないと思ってさ。僕たちが、物語の先を知っている読者だなんて本当のことは言えないだろ)
(それはそうだけど――)
 というか、私はまだシリーズ最終巻まで読み終えていないから、花蓮と陛下がどうなるのかを知らないんだけど。まあ、順当に行くなら普通にくっつくんだろうなと思うけど――。
 こそこそ話をしている私たちに、いつの間にやら妄想タイムを終了させた花蓮がまた擦り寄ってきた。
「ねえねえ、あなたたち、宿はどこに取ってるの?」
「それが、景遥には来たばかりで、まだ宿は決まってないんだ。これまでの旅でお金も尽きちゃったし、この国には知り合いもいないし、どうしようかと困っていたところで」
 すらすらと適当なことを答える六区に、花蓮は手を打って言う。
「だったら! 私のところへ来ればいいわ。さっきの連中がまたあなたたちを狙ってこないとも限らないし、私が安全な宿を提供するわよ!」
 

 そう言って連れて行かれた『安全な宿』は、後宮の中だった。
「さっきは嘘ついちゃってごめんね。本当は私、ちりめん問屋の孫娘じゃなくて、後宮の妃なの。あ、全然下級なんだけどね」
 ――いえ、それは先刻承知ですけれども。
 ぺろっと舌を出して謝る花蓮の正体に、六区は白々しく驚いてみせたけれど、私にはそこまでの演技力がないので、微妙な反応で横を向くことしか出来なかった。
 大体、『全然下級の妃』は皇帝陛下をお供にして忍び歩きなんてしないと思う。その上、街で拾った得体の知れない外国人を後宮へ匿うことを認めさせてしまうなんて、まさに『寵妃』の特別扱いとしか言えない。その自覚のなさが、花蓮の贅沢な身の上の所以なのだろう。
「あ、これは私の侍女の鳴鳴よ。六区が男の子だって知ってるのは、ここでは私と陛下と鳴鳴だけになるから、気をつけてね」
 お嬢様の連れてきた不思議な客人を、鳴鳴は警戒心の混ざった表情で見る。男嫌いという設定の鳴鳴も、六区はまだ声変わりもしていない少年なので苦手意識は芽生えないらしく、「お嬢様の命令ですから」と仕方なく世話をしてくれた。
 結局、夜は鳴鳴の使っている小さな続き間が私たち姉弟に与えられ、鳴鳴は花蓮と一緒に寝むことになった。
 夢の中で眠ったら、目が覚めた時には現実の身体も目を覚ますのだろうか?
 そう期待したけれど、私は翌日も後宮で目を覚ました。
 日曜の翌日は月曜で、普通なら学校へ行っているはずなのに、自分は今お話の中の後宮にいて、何をすればいいのだろうか?
 梅花殿に暮らす他の妃たちは、花蓮が連れ込んだ客人を見物に来ては、「これで陛下はまた後回しね」「お気の毒~」と笑いさざめている。彼女たちにどう反応すればいいのか、ここでどう過ごせばいいのか、戸惑うばかりの私をよそに、六区はすっかり花蓮と意気投合している。
 花蓮の蔵書、山ほどの煌恋小説を読み漁った六区は、花蓮に勧められて小説を書き始めた。
「真奏と同じ国から来て、ここまで煌恋小説に理解があるなら、あなたもきっと面白いお話を書けるわよ! 楽しみ~!」
 ここから、話がますますおかしなことになってきた。
 花蓮は六区が書き上げた小説を読んで大絶賛し、煌恋小説を発行する夢幻書局の編集者・紫夕にも見せた。そしてそれが出版されると、たちまちの大人気。六区は一躍、大ヒット作家になってしまったのだ。
 ――ちょっと待って。この夢、どういう方向へ行くの!?

 
◇―――*◆*―――◇

 

 一方の皇帝陛下は、今日も元気に宰相閣下から雷を落とされていた。
「陛下! 朝議中の内職は厳禁と何度申し上げたらおわかりいただけるのです!」
「時間が足りぬのだから仕方がないだろう。六区は異様に速筆で、どんどん新作を書き上げるのだ。私も『妄想探偵カレン』の続編をどんどん書かねば、対抗出来ぬではないか」
「なぜ対抗する必要があるのか、と申し上げています」
「花蓮は今、六区の小説に夢中なのだ! 対抗して私も小説を書かねば、花蓮に存在を忘れられてしまうではないか。男と女の関係は、捨てられるより、忘れられる方が切ないのだぞ!」
「後宮の主である皇帝を忘れるような妃は、牢に入れておしまいなさい」
「馬鹿を言うな。花蓮の顔を見られなくなるなら、私も一緒に牢に入るぞ!」
「自ら牢に入る皇帝がどこにいますか!」
「だから毎日後宮で花蓮の顔を見るために、自分が書いた小説を持ってゆくのではないか! おまえもこんな説教をしている暇があったら、一枚でも多く挿絵を描け! カレンを美少女に描く練習をしろ!」
 そう言って小説執筆に没頭し始めた皇帝陛下を、遣り切れない表情で見つめる宰相閣下なのだった。

 

◇―――*◆*―――◇

 

 おかしな方向へ転がり出した夢は、今日は醒めるか、明日は醒めるか、と待ちながら、あっという間に数ヶ月の時間経過を見た。
 後宮に居座ったまま人気煌恋小説家の仲間入りをした六区は毎日執筆活動に勤しみ、花蓮は人気作家のパトロン気分でご満悦、これといってすることのない私は、ただ飯食いも申し訳ないので宮殿内の雑用を手伝っている。
 私が見ている夢なのに、夢の主がまったくの手持ち無沙汰という状態もどうかと思うけど、もっと気の毒なのは皇帝陛下である。花蓮が六区の小説に夢中で相手をしてくれないものだから、自作の小説を携えてちょっかいを出しに来ては肘鉄を喰らわされて追い返されるという、空しい日々を重ねている。
 そうでなくても残念な身の上の陛下を、うちの弟がさらに残念な目に遭わせるなんて――。そんな所業は、読者として間違っているのではなかろうか。
 大体、皇帝陛下が煌恋小説を書きまくっている国って何? いくら夢の中とはいえ、このまま六区がここにいては国の迷惑だろう。早くあの子を連れてここから出て行かないと。
 私が目を覚ませば済む話なのはわかっているけれど、どうやったら目が覚めるのかわからない。こんなに長い夢を見るなんて、現実にはどれくらいの時間が経っているんだろう?
 不安と焦りに苛まれる私の気も知らず、六区は至ってマイペースだった。
「ココちゃんココちゃん、明日は煌恋歌劇の新作初日だって! 花蓮が連れてってくれるって。もうあれから何ヶ月も経ってるから、あの時の連中も僕たちのことなんて覚えてないよね。出かけてもきっと大丈夫だよ」
 締め切り明けでご機嫌の六区に、そんな吞気にしている場合じゃないだろうと文句を言ってやろうとした時、花蓮の部屋へ陛下が乱入してきた。
「花蓮! 煌恋歌劇の初日なら、私も一緒に行くぞ!」
「……別に陛下は誘ってませんけど、行きたいならご自由にどうぞ。お客さんは多い方が劇場も嬉しいでしょうし」
 うんざりと答える花蓮の手を取って、陛下は言い募る。
「私はおまえと一緒に出かけるのが嬉しいのだ! 劇場を喜ばせるためではないぞ。私はおまえを喜ばせたいのだ。おまえが欲しい物はなんでも与えてやるし、やりたいことはなんでもさせてやるぞ! だからもっと私を大事にしろ! 私との時間を取れ!」
 一国の皇帝にここまで惚れ込まれながら、
「もう、鬱陶しいから離れてくださいっ。陛下に頼むまでもなく、欲しい物は自分で買いますし、やりたいことは勝手にやりますから、おかまいなく!」
 などと言い放てるところが、花蓮のすごいところである。贅沢な身の上以外の何物でもない。そして、
「私の『妄想探偵カレン』が全国発売出来ぬのは理央がどうしても許可しないからで、大々的に売り出すことさえ出来れば、私も人気煌恋小説家の仲間入りだからな。おまえには負けぬぞ……!」
 と本気で六区をライバル視している陛下は、残念な身の上以外の何物でもないと思う……。
 

 呆れと感心を綯い交ぜに、翌日もやっぱり夢は醒めなかった。
 私は六区と花蓮たちに付き合わされて、西市の奥にある煌恋歌劇場へ出かけた。ちなみに陛下は同行していない。不憫な皇帝陛下は朝議の後に始まった宰相様のお説教が終わらないらしく(世容さん情報)、なかなか後宮へ姿を見せなかったので、花蓮はとっとと出発を決めてしまったのだった。
 観劇後、屋台の団子をあれこれと食べ比べながら歩いていると、六区の足元に何かが転がってきた。それを拾い上げた六区が、瞳を丸くする。
「あ、これ――」
 丸く磨かれた、拳大の黒い石。表面には不思議な模様が刻まれている。
「前に拾ったのは白い石だったけど、その黒バージョンだよ」
 六区がそう言って花蓮に石を見せた時、前回と同様に人相の悪い男たちがバラバラと現れて私たちを取り囲んだ。
「おい、今拾った物を返せ」
「石の模様を見たのか? だったら、ただじゃあおけないな」
 またこの展開――!?
 白い石を落とした連中とは別の人たちみたいだけど、そんなに大切な物ならどうして街中で簡単に落とすのよー! 責めるべきは自分たちのドジっぷりなんじゃないの!?
 という文句が私の口から出る前に、花蓮と六区が男たちを質問責めにし始めた。
「ねえ、この石の模様って何なの? 色は何種類あるの? 全部集めたら何か起きるの?」
「それぞれの石を奉じる勢力があって、お互いに石を奪い合ってるとか? 現在、勢力間で抗争中ですか?」
「石を失うとどうなるの? 模様を見られたらまずいということは、この模様自体に大きな意味があるのよね?」
「うるさい! そんなことおまえらに教えられるか! どうでもいいから早く石を返せ!」
 前回あっさり石を取り上げられた六区は、今回は素早く身を翻し、すばしっこく男たちの脇を抜けてその場を逃げ出した。
「六区!」
 私と花蓮は慌てて六区を追いかけ、男たちからは逃げ回り、そうするうちに三人はバラバラにはぐれてしまった。
 市に並ぶ様々な店の中、大きな野菜籠の陰に隠れて一息ついた私は、他のふたりのことと自分の今後について思案した。
 たぶん、花蓮は大丈夫だ。小説の中のパターンとして、あとから追いかけてきた陛下に都合良く救けられるとかで、無事に保護されるだろう。それで行くなら、六区も危ないところを偶然腕の立つ人物に救けられて、その人に可愛がられてご馳走を振る舞われて綺麗な服を着せてもらって、という美味しい強運展開があり得る。
 一番問題なのは、私だ。私は特に贅沢な身の上には生まれついていないし、このまま市の中を逃げ回っていても、いずれは見つかって捕まるだろう。そして石を持って逃げた六区をおびき出すための人質にされるのがオチだ。でも六区の居場所を教えろと言われても、後宮で居候をしているなんて言える? 言ったところで、そんなの信じてもらえないに決まってる。下手をしたら拷問展開……!?
 あんなハチャメチャコメディ小説を読みながら見ている夢の中で、生命の危険にさらされるなんて不運過ぎないだろうか!?
 いくら夢の中だからって、痛い思いをするのも生命を落とすのも御免被りたい――!
 絶望感に全身が冷たくなった時、どこからか六区の声が聞こえた。
「――ココちゃん! ココちゃん!」
 六区が近くにいる? どこ?
 慌てて辺りを見回したけれど、弟の姿は見当たらない。でも私を呼ぶ声は聞こえる。右から、左から、上から――

 
「ココちゃん! ココちゃん! 大丈夫!?」
 はっと目を覚ますと、目の前に六区の顔があった。私は片手に文庫本を持ったまま、リビングのソファに寝転がっていた。
 ――目が覚めて、現実に戻ったの?
「帰ってきたらココちゃんがソファで寝てて、すごくうなされてたから、心配しちゃったよ。どうしたの、そんなに悪い夢を見てたの?」
「……あんたの本のせいよ……」
 私は大きく息を吐いて起き上がり、夢のことを話した。
「景遥に行って花蓮と陛下に会った夢!? いいなー、僕も一緒にいたの? でも僕はその夢を見てないから、同じ体験は出来なかったよ。ココちゃんだけ、ずるいなー。不思議な丸い石にどんな力が秘められてたのか、気になるなー。夢の続きって見られないのかなー?」
 頻りに私を羨ましがる六区だったけれど、私はもう二度とこんな夢は見たくない。ハチャメチャな大冒険は、贅沢な身の上に生まれついている人間だけが楽しめる贅沢な遊びなのだ。私には向いていない。
「……まあ夢の話はともかく、花蓮と陛下がどうなるのか、コレ最後まで読んでみるわ」
 初めは花蓮の行く末が気になって読み進めていたけれど、今となっては健気な皇帝陛下がちゃんと報われるのかどうかが気になる。
「ココちゃんが僕の本を読んでくれるなんて珍しいね。嬉しいな。もし夢の続きを見たら教えてね!」
「もう夢は見ないってば!」
 ……と宣言したものの、その夜もまた夢の中で景遥にお邪魔した私は、引き続き人気煌恋小説家をやっている弟の取材活動に付き合わされて、また新たなドタバタに巻き込まれたのだった。
 

〔おしまい〕

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